アルキルグルコシドの特徴について
名称、原料の由来、構造について
アルキルグルコシドは、台所洗剤やシャンプーに配合される非イオン(ノニオン)性界面活性剤になります。
⇒非イオン界面活性剤とはどんなもの?
生分解性がよく、刺激が少ないのにも関わらず、起泡性がいいのが特徴です。
原料メーカーから入手した場合、40%前後のアルキルグルコシド成分を含んだ淡い黄色い液体になります(*1 参考文献)。
原料の作成・合成方法
糖と高級アルコール※1がグリコシド結合※2を介した反応によって作られます。
反応させる糖と高級アルコールの種類によって、アルキルグルコシドの性質が変わってきます。
高級アルコールを構成している炭素数が多くなればなるほど肌刺激は減っていく傾向があります。
※1)高級アルコールとは、炭素数が多いアルコール化合物のこと。
炭素の数が6個以上連なったものに水酸基(ーOH基)がついているものを指します。
※2)グリコシド結合とは、糖と炭素と水素からなる化合物(有機化合物)の結合のこと。さらに付け加えると、グルコースの水酸基(ーOH基)と有機化合物の間で酸素を介したエーテル結合(-O-)を形成しているものになります。
化粧品や台所洗剤としては、ブドウ糖と炭素数が10個前後の高級アルコール(脂肪族アルコール)が結合したものがよく使われています。
アルキルグルコシドは高級アルコールの炭素数ごとにそれぞれ名称が異なります。
- 炭素数8個 カプリルグルコシド
- 炭素数10個 デシルグルコシド
- 炭素数12個 ラウリルグルコシド
(※炭素数は、12以上のものもあります)
アルキルグルコシドの構成要素が糖と高級アルコールということもあって、多くは天然由来の植物原料から作られています。
例えば、アルキルグルコシドの一種であるデシルグルコシドの合成原料は、とうもろこし(コーンスターチ)とココナッツ由来のものを使っているそうです。
デシルグルコシドは、コーンスターチ由来のグルコースとココナッツ由来の脂肪族アルコールであるデカノールを反応させて生成する。
下図はアルキルグルコシドの構造式になります。左側のO(酸素原子)のところの部分までが糖(グルコース)由来の原料部分(親水性)、右側の折れ線が高級アルコール部分(疎水性)になります。
表示について
洗濯表示の場合(家庭用品品質表示法における成分表示)であれば、「アルキルグルコシド(AG)」となっていますが、化粧品原料の場合では、「アルキルグルコシド」という表示ではなく、「カプリルグルコシド」、「デシルグルコシド」、「ラウリルグルコシド」のように炭素数ごとの名称になります。
アルキルグルコシドは、ココナッツなどの植物性の原料を使用しているので、高級アルコールの炭素数に幅があります。そのため、医薬部外品で使われている名称では、「アルキル(8〜16)グルコシド」というように、( )かっこの部分に含まれている高級アルコールの炭素数が記載された表示になります。
<アルキルグルコシドの表示 (炭素数10個のデシルグルコースの場合)>
表示の種類 | 名称 |
化粧品原料名 | デシルグルコシド |
医薬部外品原料規格名称 | アルキル(8〜16)グルコシド |
家庭用品品質表示法における成分表示 | アルキルグリコシド(AG) |
性質について
低刺激
構造的な性質としてアルキルグルコシドの高級アルコール部分の炭素数が多い方が、肌に対してよりマイルドな傾向があります。
アルキルグルコシドのような非イオン界面活性剤は、電荷(静電気)を持ちません。
タンパク質に吸着する作用が弱く、タンパク質の立体構造を壊して性質を変えてしまう「タンパク質の変性」が起きにくい傾向があります。そういうことから皮膚や目に対して低刺激の原料となっています。
特にアルキルグルコシドの場合、糖(グルコース)の部分が周囲の水を取り込む性質があるので、タンパク質との相互作用がより穏やかだとされています(*2 参考文献)。
また、皮膚表面の皮脂やバリア機能に関わる角質層の油脂成分を必要以上に除去しないことが試験的に確認されています(*2 参考文献)。
ところが、食器洗いにも使われているように油汚れも落とすぐらいの洗浄力は備わっています。
しかも台所で使う場合、かなり長時間接触(例えば30分以上とか)することになりますよね。特に冬場は、お湯を使って洗うことになりますし。
低刺激といってもあまり過信しないほうがいいので、洗浄剤として使うときには、できるだけ接触時間を短くした方がいいかと思います。例えば台所用洗剤のようにあらかじめ長時間使う事が分かっているのであれば、手袋を活用したほうがいいかもしれません。
⇒参照:洗浄に使う場合はゴム手袋をはめた方がいいですが、それにもトラブルがあります。
優れた起泡性、硬水中でも使える
アルキルグルコシドは、刺激が少ないのにも関わらず、陰イオン界面活性剤並に起泡性がよく、洗浄力が高い性質があります。台所洗剤やシャンプー、ボディソープなどの洗浄剤として使われています。
他の界面活性剤(陰イオン、陽イオン、両性イオン界面活性剤)が共存していても、性質が変わらないので、幅広く活用できます。
ただし、アルキルグルコシドの炭素数が増えると起泡性がさがり、乳化剤としての用途で使われています。
アルキルグルコシドは非イオン界面活性剤で、電荷(静電気)を帯びていないため、ミネラル分が多い硬水中でも性質が変わらず使うことが出来ます。
優れた生分解性、水生環境によい
もともと天然成分の糖と高級アルコールから出来ているので、生分解性はかなり優れた界面活性剤になります。
微生物による生分解性(BOD:生物化学的酸素要求量、DOC:溶存有機炭素濃度)が国際機関の設定値よりも優れたという調査結果(*2 参考文献)や、石けんよりも優れていたという報告もあります(*4 参考文献)。
生分解性がいいとなると肌への吸着が少なく、より安全に使えます。
イメージが良い
天然植物由来の原料(コーンやヤシ油)を使って合成されているので、流行りのボタニカルやオーガニック系統のシャンプーや洗剤に使いやすい成分です。
しかも低刺激で生分解性も良いのでイメージはいいのではないでしょうか。
安全性について
アルキルグルコシドに関して、毒性、発がん性、アレルギー性は、ないことが報告されています。
ただし、海外の文献にて皮膚に接触したままの化粧品ではアレルギーの可能性も示唆されています。
毒性について
毒性(急性毒性)については、化粧品原料メーカーの書類を参照にすると、使用上ないことが報告されています。
実使用上、経口/経皮暴露後の毒性はありません。単回暴露後に、特定の臓器に対して毒性を示すことはありません。
発がん性について
発がん性についての危険性は、化粧品原料メーカーの書類を参照にすると、使用上ないことが報告されています。
入手可能なデータから、発がん性はないと考えられています
アレルギー性(感作性)について
アレルギー性(感作性)についての危険性は、化粧品原料メーカーの書類を参照にすると、使用上ないことが報告されています。
ただし、海外の報告では、接触したままの化粧品でアレルギーの報告もあります。
入手可能なデータから、皮膚感作性についてはないと考えられています
During the past 15 years, numerous cases of allergic contact dermatitis have been published, mostly to lauryl and decyl glucosides, and these compounds are considered emergent allergens.
Interestingly, the sunscreen Tinosorb M contains decyl glucoside as a hidden allergen, and most cases of allergic contact dermatitis reported to this sunscreen ingredient are probably due to sensitization to decyl glucoside.日本語訳:過去15年間に、アレルギー性接触皮膚炎の多くの症例がラウリル、デシルグルコシドで報告され、新たに出現したアレルゲンであると考えられる。興味深いことに、サンスクリーンのTinosorb Mは、潜在的なアレルゲンとしてデシルグルコシドを含んでおり、この日焼け止め成分で報告されたアレルギー性接触皮膚炎のほとんどの症例は、おそらくデシルグルコシドに対する感作によるものである。
使われている製品
デシルグルコシドやラウリルグルコシドのような炭素数が10前後のものは、シャンプーやボディーソープなどヘアケア、ボディケア商品に配合されています。その他、洗剤として、台所用食器洗剤としてよく活用されています。
炭素数がさらに多いグルコシド原料になると乳液や日焼け止め、メイクアップ用品の乳化剤としても配合されています。
台所用洗剤
アルキルグルコシド使用の洗剤
ドルチボーレナチュラルウォッシュに洗浄剤主成分として配合されています。
シャンプー
デシルグルコシド
<ETVOS(エトヴォス)>スキンケア発想のヘアケア【モイストヘアケアシリーズ】
アミノ酸系主体のシャンプーですが、洗浄剤成分として添加してあります。
参考文献
*2)東西田 奈都子 齋藤 明良, 糖系非イオン界面活性剤アルキルグルコシドの特性と応用 オレオサイエンス(2014) 第 14 巻第 11 号 473-477
*3)J. Kamegai, H. Watanabe, H. Hanazawa, H. Kobayashi, (1993)J. Soc. Cosmet. Chem. Japan., 27(3), 255