アルキル(C12, 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIとはどんなもの?

シャンプー コンディショナー トリートメント イメージ図

 

アミノ酸由来の界面活性剤って聞いたら、シャンプーに含まれているアミノ酸系の洗浄剤を思い浮かべるのではないでしょうか?

このアルキル(C12, 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIは、ちょっと聞き慣れない原料ですが、ナチュラル志向のコンディショナーやトリートメント剤に使われるようになってきました。

 

どういうものかみていきましょう!

 

※アルキル(C12, 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIっていう名称が長いので、文章中は、アルキル(C12, 14)〜にしますね。

 

アルキル(C12 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIの名称について

 

薬用化粧品の表示と化粧品の表示名称が変わってきます(*1 参考文献)。

 

・化粧品の成分表示名称
アルキル(C12,14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCl

・医薬部外品原料規格名称の表示
N-[3-アルキル(12,14)オキシ-2-ヒドロキシプロピル]-L-アルギニン塩酸塩液

 

アルキル(C12 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCI原料の性質について

 

アミノ酸であるアルギニンと高級アルコール※からできあがったアミノ酸系の両性界面活性剤になります。

 

高級アルコールの模式図

※補足ですが..高級アルコールというのは、炭素原子が6個以上連なったアルコールのこと炭素原子には、それぞれ水素がついていて、どこか1ヶ所以上水酸基(-OH基)がついたものになります

 

⇒参照:両性イオン界面活性剤とは?

⇒参照:両性イオン界面活性剤の原料の性質について(例:ラウラミドプロピルベタイン)

 

 

髪の毛をしっとりなめらかにするエモリアント効果が優れているので、リンスやコンディショナー、トリートメント剤といったように髪の毛を配合されています。

同時に静電気を抑える帯電防止の効果もあります。

アミノ酸由来ということもあって皮膚への刺激性が低く、安全性が高いことや生分解性能が高いのが特徴です。

しかも、古くから使われてきたトリートメント剤と比較して機能面においても劣っていないことが報告されています。

 

原料の製造元である味の素のデータ(*2 参考文献)によると、古くからリンス・トリートメント剤の主剤で使われていた第四級アンモニウム カチオン(陽イオン)界面活性剤のステアリルクロリドよりも効果(表面の滑り性、帯電防止能、水分保持力、切れ毛防止効果※)を比較しても全く劣っておらず、むしろ帯電防止能に関してはさらに良い結果が得られたそうです(*1,2,3 参考文献)。

※正確には、髪の毛の切れやすさの指標である破断応力を調査しています。

 

アルキル(C12 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIのリンス剤としての効果がある理由とは。

なぜ、カチオンの第四級アンモニウムステアリルクロリドよりも優れた効果があったのかというと、構造中の「アルギニン」が関わっているからです。

アルギニンは、生体内でもよくあるアミノ酸なのですが、中性〜酸性の水の条件では、髪の毛に吸着する性質があります。

それの性質を利用して、リンス剤に応用しています。

アルギニンの中に、NH(N:窒素とH:水素)が3つある部分があります(赤い色で塗っている部分)。

アルキル(C12 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIの構造

アルキル(C12 14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIの構造(*3 参照文献)

 

グアニジノ基(三級アミン)といって、中性ぐらいの水に溶けているときは、「+)イオン(カチオン、陽イオン)」になる性質があります。

そして、毛髪タンパク質にあるアミノ酸のカルボキシル基部分の「(−)イオン(アニオン、陰イオン)」と静電気的に結合(イオン結合)します。

しかもうまい具合に毛髪とかみ合いやすい構造になっています(*2  参考文献)。

 

一般的な第四級アンモニウム塩だと、+イオンがあるので吸着する作用はかなり強いといわれていますが、実際には髪の毛の表面のでこぼこした構造に阻まれて、緩やかな結合(親油基だけの結合)になりやすいともいわれています(*2  参考文献)。

吸着してもすぐに剥がれてしまったり、本来の作用よりも低くなる原因につながってきます。

そういうこともあって、アルキル(C12 14)〜は、両性イオン界面活性剤というリンス剤としては弱い界面活性剤の部類にも関わらず、髪の毛のへのリンス作用が第四級アンモニウム塩と同等、さらにそれ以上効果があったのは、そういう理由からです。

 

また、構造中のあちこちに水に馴染みやすい部分(-NH(2)アミノ基や-OH水酸基)が豊富にあるので、髪の毛に吸着したアルキル(C12 14)〜は髪の毛が傷んだ個所を保護するとともに、髪の毛のパサツキ・切れ毛を保護します(*3 参考文献)。

 

アルキル(C12,14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIの製造方法と界面活性剤の構造について

アルギニンと高級アルコールとの反応させて作られています。

アルギニンは最初に炭素数が3つの親水性原料と反応した後に高級アルコールと反応させ、最終的にはHClで中和させて作られてます。

アルギニンは、ヒトを含めたどの生物も持っているアミノ酸。
原料が味の素(製品の名称はアミセーフ® LMA-60)なので、微生物の発酵で得られたアルギニン(L-アルギニン)が使われているのかもしれません。

 

原料の名称にアルキル(C12,14)〜と書いてありますが、両性イオン界面活性剤部分の油に馴染む親油基部分の炭素の数を表しています。炭素の数が12個と14個になります(下にある図で紫に塗った部分)。

C12は、テトラデカノール C14は、ヘキサデカノールという高級アルコール由来で、ヤシ油から精製された脂肪酸から作られているのが一般的です。

いずれにしても全体的に生分解性のよい成分からできています。

アルキル(C12,14)オキシヒドロキシプロピルアルギニンHCIの構造(*3 参照文献)

 

アルキル(C12,C14)〜の両性イオン界面活性剤部分、つまり界面活性剤として作用する部分は、髪の毛に吸着する部分とは違う部分変わった特徴があります。

アルギニンの後ろ側部分から紫色で示した高級アルコールが付加した場所、青色で塗った部分が界面活性剤の作用がある場所になります。

 

毛髪に吸着するアルギニン部分はpHによってほとんど変わらず、常に+)になっているという性質があります。

両性イオン界面活性剤といってもどちらかといえば陽イオン界面活性剤に近いのかもしれません。

⇒参照:両性イオン界面活性剤とは?

安全性について

安全 イメージ図

ほとんどのトリートメント剤には、今回最初にお伝えしたステアリルクロリドのような第四級アンモニウム塩タイプのカチオン界面活性剤になります。

この第四級アンモニウム塩タイプは、表面をなめらかにして手触りを良くするリンスやトリートメント効果はかなり強い半面、皮膚刺激性や毒性が高いものが多いのが特徴です。

さらに、殺菌剤にも使われている種類があるほどです。

⇒参照:陽イオン界面活性剤とは

 

最近ちらほら、肌の弱い人向けにカチオン界面活性剤でも比較的皮膚刺激の少ない第三級アミン塩タイプのものも出てきましたが、まだまだ市場の1/10程度と少ないようです。

今回のアルキル(C12,14)〜は、アミノ酸系の両性イオン界面活性剤とカチオン界面活性剤と比較してかなり皮膚刺激性や毒性が少ないものだとされています。

文献(*3 参考文献)によると、皮膚のアレルギー性(感作性)や皮膚の刺激性※はほとんどなかったことが報告されています。

※活性濃度を1%で24、48、72時間のヒト皮膚のパッチテスト試験

 

化粧品に配合している場合は様々な成分が混在しています。今回ご紹介した成分は身体に優しい成分であるとはいえ、配合した成分と一緒に毛髪に強く吸着したままになることもあります。

一緒に配合されている成分もできるだけ皮膚の負担がないものを選ぶのはもちろんのこと、洗浄剤を含めた化粧品を使うときは、肌の状態を確認しましょう。

もし調子が悪い場合は、使わないという選択もあることも忘れないでくださいね。

 

成分が入った商品について

化粧品 イメージ図 

 

リンスやコンディショナー、トリートメントなどのヘアケア商品の他にも、皮膚刺激がすくないので、肌に直接つける化粧品の保湿成分として使われています。

 

成分が入っているもの

ETVOS モイストヘアケアシリーズ

 

 

参考文献

1)アミセーフ® LMA-60, COSMETIC-Info.jp
<https://www.cosmetic-info.jp/mate/detail.php?id=9294> (2018年12月24日アクセス)

2) 味の素ホームページ リンス基剤 アミセーフ®
<http://www.ahs.ajinomoto.com/products/cosme/cosme_2.html>(2018年12月24日アクセス)

3) 田保橋建・二宮涼子・伊森義久 味の素 中央研究所 化成品開発室 (1998), 新しいヘアケア用アミノ酸誘導体,FRAGRANCE JOURNAL  26 (5) P59

4)  監修 国枝博信 坂本一民 界面活性剤と両親媒性高分子の機能と応用  シーエムシー出版 P137-138