抜け毛はある程度だれでも起きるものです!
「最近なんとなく抜け毛が多いような。大丈夫かな..」
「なんかやたら抜けた毛が細いような..」
とお悩みの方も多いかと思いますし、どんな状態の抜け毛が正常で、異常なのか気になるところです。
どんな髪の毛が異常なのかをご説明する前に、一般的な髪の毛の傾向について簡単に説明していきます。
ヘアサイクルについて
髪の毛はずっと伸びっぱなしではなく、伸びる時期と抜ける時期がある”ヘアサイクル(毛周期)”を周期的に繰り返すようになっています。
抜けても時間が経てば元通りに生えてくるものですし、ある程度抜けてしまうのはごく普通のことですよね。
ちなみに、このヘアサイクルには、大きく分けて3つの期間があり、次の様になります(模式図は下図参照)。
成長期
いわゆる髪の毛が伸びる時期。
毛幹部(髪の毛部分)太くなって、表皮表面にグイグイと押し上げられてどんどん伸びていく。
期間は3年〜6年で、女性のほうが長い傾向にあります。
全頭髪の9割前後が成長期毛になります。
退行期
毛根部が細くなって退化が始まる時期。
毛幹が棍棒状(毛の根本がこんぼうの形)になるのが特徴。
期間は2〜3週間。
休止期
細胞分裂、毛の伸長も完全にストップする。
毛幹部が表皮表面に上昇して自然と抜け落ちる状態になってしまい、仮に頭髪についていたとしてもブラッシングや簡単な刺激で抜け落ちてしまう。
毛根の下部では毛を作る毛母細胞の分裂が活発になって、新しい毛が作られるはじめています。
休止期の後、成長期に再び入っていきます。
期間は3ヶ月で、退行期毛と休止期毛は全頭髪の約10〜14%前後存在します。
【ヘアサイクルの模式図】
そして、これらのヘアサイクルの3つの期間は遺伝子を元にしてつくられる成長因子等によって細胞の調節やヘアサイクルの進行の調節がなされています。
例えば、毛が伸びる成長期には、FGF−7と呼ばれる成長因子が毛乳頭とよばれる部位から分泌されて、毛母細胞の増殖を促し、毛の伸長を促進させています。
また、TGFーβ1と呼ばれる成長因子は、ヘアサイクルの成長期から退行期に移行するシグナルとしての役割をもちます。
→成長因子どんなもの?(再生医療の記事ですが、前半に説明しています。)
成長期は、3〜6年と記載していますが、それぞれの年数は文献によって多少前後します。
一般的に女性ホルモン(エストロゲン)の関係で女性の方が成長期がやや長い傾向にあります。
※年数はあくまで頭部の期間になります。頭髪よりも短い”まつげ”であれば3〜6ヶ月とヘアサイクルも短くなります。
人間の髪の毛はそれぞれ一本一本ヘアーサイクルが違っていて、一度にすべての髪の毛が抜け落ちて生え変わるということはありません。
(他の動物では毛同士が同調して冬毛から夏毛..というように一気に変わることはあるんですけどね..)
パラパラとそれぞれ別の箇所から毛が一本ずつ抜けおちるので、特別問題がなければ抜けた箇所が目立たないようになっています。
抜け毛の本数について
抜け毛の本数はどれくらいが正常なのでしょうか?
逆にどれくらいから気をつけなければいけないのでしょうか?
全頭髪の本数は、平均10万から12万本だと言われています。
先程の毛髪が抜け落ちるまでが3〜6年ぐらいで、間を取って5年だとして、仮に10万本が5年で抜けるとしたら…
100,000(本) ÷ 5(年)= 20,000 (本)
1年間で2万本抜けることなります。
そして、20,000 ÷ 365(年)= 約55(本)
が1日の本数になります。
(計算値は、八木原陽一 著 毛髪のひみつ 参照)
この計算値はあくまでも目安で、50本〜80本(他のによると、50本〜100本)ぐらいの抜け毛は正常の範囲になります。
それよりの多いときは、何らか頭髪に異常がある可能性があります。
シャンプーをする時に抜け毛が一番多く出るので、気になっている方は排水口に髪の毛ネットやゴミ受けを置いておくと確認しやすいのではないでしょうか。
ところが、抜け毛が目安よりも多いからといっても即ハゲる(抜け毛が進行する)わけでもないことが多々あるようです。
それは、季節や体調によって本数は変動することがあります。
特に秋あたりに抜け毛が多く、通常の1.5倍程度(150本前後)に増えることが知られています。
季節間の変動があるとはいえ、数ヶ月間ずっと抜け毛が150本前後あるのは異常です。
さらに、抜け毛の量よりも抜け毛自体や抜け方に問題があった場合は更に要注意です(下記の異常な抜け毛を参照)。
例えば、同じ場所から一度に何本も抜けたり、抜け毛の形がいびつであったり、細い毛が多く出てくる場合には、毛包(髪の毛を作る組織)に異常があったり、栄養状況が良くないことや何らか感染症にかかっているなど、抜け毛を更に悪化させてしまう要因が考えられます。
そういう時には、自己判断であれこれするよりも皮膚科専門医(できれば脱毛専門の外来)で症状や抜け毛の原因を相談してください。
異常な抜け毛について
以下のような異常な抜け毛が多く見つかっているようであれば、頭皮環境が悪化していたり、毛包組織自体に異常があったり、感染症にかかっている場合があります。
たとえ、150本未満の抜け毛だとしても要注意です!
異常な抜け毛とは..
- ハリ・コシが無く、細くて短い抜け毛。
- 毛の根本がえらく細長い、またはいびつな形(くびれた形等)。
- 毛が途中からちぎれている。切れ毛が多い。
- 皮脂やフケ、汚れが多く付着している。
- 抜け毛の場所が偏っている。一箇所に集中して抜け毛がでてくる。
それぞれの原因を簡単に説明しますと..
ハリ・コシが無く、細くて短い抜け毛
ハリ・コシが無く、細くて短い抜けが多くなる要因としては、栄養不足で毛包組織に十分に栄養が行き渡っていないことや、ヘアサイクルの成長期が短くなってしまっていることが考えられます。
特に、ヘアサイクルの期間が短くなっている場合だと、男性ホルモンとそれにまつわる酵素(ジヒドロキシテストステロンというもので、DH5αと記載されているところもあります)が関与している男性型脱毛症になっている場合がほとんど当てはまるのではないでしょうか(AGAについては後述で詳しく説明します)。
男性型脱毛症の大多数はもちろん男性ですが、女性でも起こります(女性男性型脱毛症、FAGA)。
そのほか、甲状腺の疾患でも細くてツヤのない抜け毛が生じます。
毛の根本がえらく細長い、またはいびつな形(くびれた形等)
頭皮に栄養がいき渡らず、髪の毛を太く成長させることができなかった場合に起きることがあります。
ムリなダイエットも原因の一つです。
また、円形脱毛症の抜け毛も細く長く、いびつな抜け毛が生じやすいようです。
円形脱毛症にはいくつか原因があるとされていますが、自分の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患であると考えられています。
攻撃する免疫細胞はメラニンを標的にする性質があります。
ヘアサイクルの成長期毛包ではメラニンが作られた後、毛幹に取り込まれていく過程を経るため、毛包ごと攻撃を受けてしまいます。
そうすると、毛幹部の根本がいびつになってしまったり、脱毛してしまいます。
毛が途中からちぎれている。切れ毛が多い
化学的な処理や物理的なダメージによって切れ毛が多くなることもあります。
それ以外で抜け毛につながるトラブルとしては、”シラクモ”とよばれる頭部への白癬菌の感染症において、毛幹部が頭皮の表面で折れてちぎれて抜け毛となることがあります。
→シラクモとは何?(乾燥フケの感染症の一部で説明しています)
他に髪の毛が一定間隔で節(結節)ができて、数珠玉のように見える連珠毛と呼ばれる先天性疾患があります。
連珠毛の結節と結節の間はくびれてちぎれやすい状態になっていて、簡単な物理的な刺激で切れてしまいます。
連珠毛の原因は、毛幹、つまり髪の毛自体をつくっているヘアケラチン遺伝子の変異だとされています(まれに、細胞と細胞を接着に関係するデスモグレイン4と呼ばれる遺伝子の変異もある)。
思春期や妊娠期間にミノキシジルやビタミンA誘導体(アシトレチン)に効果があった例はありますが、根本的な治療法がなく、髪の毛を含む頭部にできるだけ物理的な刺激を与えず、帽子などで紫外線を防いでできるだけ切れ毛を防ぐようにするのが最も効果的だとされています(GARD: Genetic and Rare Disese Information Centerのpili torti を参照)。
また、細くてねじれた毛が部分的にできて、もろくちぎれやすい毛が生じる捻転毛とよばれる先天性疾患もあります(こちらは後天的な場合もあります)。
こちらも同様に根本的な治療法がなく、毛が物理的に千切れないように保護するという対策が取られているようです。
抜け毛の形状だけではなく、抜け方についても異常な場合は要注意です。
抜け毛が一箇所に偏って集中している場合は、円形脱毛症の場合が考えられます。
また、シラクモに感染後、禿瘡(とくそう)という症状が出た場合では、頭皮に炎症が起きた後、かさぶたができて、脱毛が生じることがあります。
その場合、感染して症状が出た部位では、円形脱毛症の様に部分的な脱毛が見られるのが特徴です。
異常な抜け毛を紹介してきましたが、もちろん髪の毛が形が変わらなくても抜け毛が多くなる場合があります。
変わらない場合も含めた抜け毛の原因について続いて見ていきます。
抜け毛が増える原因と対策
抜け毛が増える原因には次のものがあります。
- 季節性の抜け毛
- 栄養不足
- 日々の生活習慣やストレス、疲労
ストレス
生活習慣(喫煙、夜更かし)
血行不良(肩こり、眼精疲労) - 分娩後の脱毛・ピル
- 加齢
- 薬剤
- 牽引性脱毛、トリコチロマニー
- 感染症、脱毛症
脂漏性脱毛症、
甲状腺機能障害、頭部白癬、
梅毒
AGA
女性男性型脱毛
円形脱毛症
慢性休止期脱毛
それぞれについて解説していきます!
季節性の抜け毛について
前述にお伝えしましたが、季節によって抜け毛の本数は誰でも変わります。
特に秋の9月、10月の抜け毛は他の月よりも1.5倍付近抜け毛が多くなります(参照:毛髪のひみつより)。
1日あたり、50本〜100本抜けていた場合、150本程度に抜け毛が増えても問題がありません。
もちろん、季節性の抜け毛は毛髪自体に異常がないので、いつもの抜け毛と同じ形をしています。
秋の抜け毛は、夏のきつい紫外線や高温による夏バテ、エアコンによる頭皮の乾燥や寒暖差による自律神経の乱れ、冷たい飲み物によって胃腸が虚弱になってしまったり、栄養不足になりがち…等、様々な要因が重なって起きています。
また、毛髪によって頭皮は保護されているものの夏場の強い日差しは毛髪にとってはダメージをさらに受けやすい状況になりやすいです。
日差しの紫外線、特にUVB自体に髪の毛(毛幹)の伸長を抑制させたり、ヘアサイクルの成長期から退行期への移行をはやめてしまい、抜け毛を促進する要因があります。
(文献:journal of Dermatology. 129 (7):1790–804. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19158839)
逆に冬場は夏場と対象的に抜け毛が比較的少なくなります。
これをもとに考えると、夏場に体力低下や紫外線の影響があるものの、他の動物のように”冬毛への毛代わり”のような痕跡が残っているのかもしれませんね。
季節性の抜け毛の場合は、ある一定の時期になれば元通りになるため、過度に心配する必要はありません。
栄養不足
過度なダイエットや、過度の運動による栄養不足に陥ると脱毛や薄毛になってしまいます。
そのため、健康的な髪の毛を維持するためには、十分な栄養摂取が重要です。
そのうち、髪の毛の健康維持に重要な栄養素についてみていきます。
アミノ酸(システイン)
髪の毛は硫黄含有アミノ酸である”システイン”が豊富なケラチンタンパク質から成り立っています。
この”システイン”が不足すると髪の毛が細くなったり、脱毛の原因に。
実際、タンパク質を全く含まない”無タンパク質食”を食べつづけた場合、髪の毛が細くなったという報告があります(毛髪のひみつよりhttps://amzn.to/2KQCypi)
ちなみに、このシステインは必須アミノ酸ではなく、同じく硫黄含有アミノ酸であるメチオニンから作ることができるんです。
ですが、メチオニン自体は、体内で作ることができない必須アミノ酸なので、メチオニンもしくはシステインを食品から取らなければなりません。
バランスの良い食事を心がけている方の場合は、メチオニン不足に陥ることはありませんが、多く含まれる食品としては、牛肉、チーズ、卵、豆類があります。
鉄
鉄分不足になるとなんとなく、貧血なるということはご存知だと思います。
貧血(鉄欠乏性貧血)といえば、めまいや立ちくらみが主な症状だと思いがちですが、抜け毛や薄毛の要因にも。
理由としては、髪の毛が作られる毛包組織周辺は血管が張り巡らされ、酸素や栄養分が取り込まれています。
ところが貧血になると、さらに栄養分が運ばれにくくなって脱毛につながるというわけです。
貧血の値の指標であるヘモグロビンが正常値でも、”隠れ貧血”というものがあることがわかってきました。
それは、どんなものかというと、フェリチン不足による貧血です。
”フェリチン”というものは、鉄を貯蔵したり、輸送するタンパク質として機能しているもので、細胞のいたるところでつくらていますが、大部分は血清中に放出されて血中の鉄分を取り込んでいます。
血中のほとんどの鉄分は、ヘモグロビンに取り込まれていますが(70%)、余った鉄分はフェリチンが取り込んで貯蔵していて、貯蔵鉄と呼ばれています。
ヘモグロビンの鉄が不足した場合、フェリチンが放出して補いますが、血清中の鉄分が不足した場合、ヘモグロビンよりも先にフェリチンが減少するという傾向があります。
そして鉄不足が回復しないと、
鉄不足→フェリチン減少→血清中の鉄分不足→ヘモグロビンの減少に繋がっていき、ヘモグロビンの数値が正常値でも、貧血..となってしまうのはこういう理由のわけです。
ちなみに脱毛患者の血中では”フェリチン”やフェリチンを構成しているタンパク質原料である”リシン”と呼ばれるアミノ酸の一種が低い傾向にあると報告されています。
Clin Exp Dermatol. 2002 Jul;27(5):396-404.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12190640
J. J Invest Dermatol. 2003;121:985–988.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14708596
貧血対策には、鉄分を多く含む食事を摂取することが一番だとされていますが、非ヘム鉄よりもヘム鉄を含んだものが体内に吸収されやすいとされてます。
※ヘム鉄→肉・魚に多く含まれている鉄分で、ポリフィリンとよばれる有機化合物と組み合わさったもの。 非ヘム鉄よりも5〜6倍程度吸収がいい。
とくにヘム鉄を多く含むものとしては、レバーや赤みの肉、しじみなどの貝類があります。
摂取しにくい場合はヘム鉄サプリを活用してもいいかもしれません。
フェリチンにふくまれているリシンが不足すると脱毛になるという報告がありましたが、アミノ酸のリシンは、肉類、乳製品、魚介類に多く含まれているものになります。